知恵の遥かな頂 |
たわいもないこの世の人々を喜ばせるために
無意味なおしゃべりにふけったり おべっかを使ってはいけません
それを強く戒めるラマの教えにしたがって
心を深く内側に向けていかなくてはなりません
あなた方は学問にもすぐれた勇気もある人々です
心の喜びは他人からもたらされるものではないことを知って
この世のことを遠く離れて瞑想の部屋で
じっと心の本性を見つめてください
ふくらんだエゴと無知に汚された心を浄化してください
この人生で得た財産や名声にすがっていても
死はいつ訪れてくるかわからず、そのときには閻魔の王を
おだてたり、賄賂でごまかすことなどできません
自分が得たものをより高い世界に向かってささげようともせず
苦しんでいるものたちに与えることもしないでいると
みずからを楽しむこともできないままに
一生に貯めた財産などは、一瞬の間に消えていくのです
食べものも話すことも、いつも必要なものだけにとどめて
この世をあまねく照らすダルマの海に心を集め
それを喜びとして今生と来世を生きることができますようにと
私は心からお祈りしています
すぐに衰え消えていく財産や名声などから離れて
満ちていく月のように喜びが常に殖え増し
輝き燃え上がる幸福に、全世界が
夜も昼もなく包まれてあることを、お祈りしています
ラマ・ケツン・サンポ
中沢 新一 (翻訳)
『 知恵の遙かな頂』より
【内容紹介】
“知恵の海”が私に教えてくれたこと。チベットの小さな村で生まれた少年は、人類の叡知の伝統を志す。人類の叡知の伝統を志す。清明な精神生活から中国のチベット侵攻、インド亡命、そして日本へ…波瀾万丈を生きた老僧が濁世に伝える魂の遍歴。感動的巨編。
【目次】プロローグ
第一章 少年の頃
第二章 ロンチェン・リンポチェとの出会い
第三章 扉が開かれる
第四章 まわり道
第五章 驚異の体験
第六章 夢と現実(うつつ)
第七章 高い頂をめざして
第八章 ヤンティ・ナクポ
第九章 不吉の前兆
第十章 運命のいたずら
第十一章 ラバと愛馬
第十二章 インドの日々
第十三章 六義園のカモ
エピローグ
感謝の言葉