――ダライラマ14世「思いやり」より
菩提心とは、自分よりも他者を大切にいとおしむ心のことです。他者のことなど顧みず、自分のことだけを考える利己的な心がどんな悪い結果をもたらすかを考えれば、他者のことを大切にいつくしむ心を育むことができます。
そして他者への愛が強くなればなるほど、利他行への熱望も大きく育ってきますし、利他への思いが大きくなればなるほど、自分の心に勇気が湧いてきます。そして、何にでも立ち向かう勇気があればあるほど、困難に直面したときに怒りを爆発させてしまうようなことはずっと少なくなるのです。
同様に、「自分はこんな苦しみにはとても耐えられないし、この人生はもう終わりだ」などと考えて絶望したときも、菩提心について思いを馳せ、「この虚空が存在するかぎり、有情のために利他行を為すことができますように」と考えることができれば、すぐにも心のもちように変化が生じて、生きていく希望と勇気が芽生え、力が湧いてきます。そして、どんなに行きづまって疲労困憊しているときでも、恐れや心配、悲嘆、絶望などが軽減されていくのです。
それでは、私自身はすでに菩提心をもっているかと問われれば、もっているとお答えすることはできませんが、菩提心を起こしたいという強い熱望は確かにもっています。そして、なんとしてでも菩提心を生起させたい、という強い願いが心の底から湧いてくるとき、その気持ちは私の心に確かに大きな変化をもたらしてくれるのです。
私はダラムサラで、毎朝菩薩戒を受け、菩提心に対する思いを新たにするよう努力していますが、二○○四年のあるとき、ちょうど菩薩戒の言葉を唱えているときに、大きな地震がありました。いつもなら、地震が起きるとすぐに恐怖心が起きてくるのですが、そのときは他者をいつくしむよき心を起こし、菩提心への祈願をしていたので、きっとその思いによって地震への恐怖がなくなったのだと思います。
地震でかなり揺れたにもかかわらず、心では菩提心のことを考えていたので、心配や恐れはまったく起きてきませんでした。
ですから、もし死に直面したときも、菩提心について考えていれば、きっと死への恐怖をもつことなく安らかに死を迎えられるのではないかと思います。菩提心に思いを馳せることは、私たちの心に確実に変化をもたらしてくれるのです。